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北のミサイル潜水艦開発(中) 阻止に動いた日本

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ロシアから北朝鮮に「くず鉄」名目で輸入され、新型潜水艦の原型になった可能性が指摘されているゴルフ級弾道ミサイル潜水艦。その取引を日本のT社(本社=東京都杉並区)が仲介していた事実は1994年当時、日本のメディアでも大きく取り上げられた。きっかけとなったのは、米国の情報当局のリークを受けた米紙の報道である。

北朝鮮が保有する旧式のロメオ級潜水艦。セイル上に金正恩氏の姿が見える

日本企業が北朝鮮と武器取引を行うことは、ココム(対共産圏輸出統制委員会)によって強く禁じられていた。しかし、それは自国からの輸出に限られ、仲介貿易に関する規定はなかった。一方、外国同士の武器取引の仲介を行うことは、外為法が禁じている。だがそれも、潜水艦が戦闘能力を備えている場合のことで、「くず鉄」なら違反にならない。

そこで焦点となったのが、潜水艦からミサイル発射装置や動力装置が取り外されているか、ということだった。

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米国から強い要請を受けた通産省(当時)は、取引に介入。「くず鉄」であることが完全に証明されるまで輸出を凍結するよう、T社とロシア側の双方から確約を取った。

宗教団体が関与か

ところが、この約束はロシア側によって一方的に反故にされる。同年5月、ゴルフ級1隻が日本側に無断で北朝鮮へ曳航されたのだ。ゴルフ級は前年12月にも1隻が運ばれており、計2隻が北朝鮮に引き渡されたことになる。

これに対し、T社は「約束違反だ」として契約を解除。結果的に日本企業との関連性がなくなったことで、通産省も取引に介入する余地を失った。つまり、ゴルフ級はミサイル発射装置が取り外されていたかどうか、第三者が確認できないまま北朝鮮に渡ったということだ。

この一部始終は、北朝鮮がゴルフ級を入手するために巧妙に仕組まれたものであった可能性が高い。そう疑わせる理由は3つある。

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第一に、北朝鮮がゴルフ級の入手に強くこだわっていたこと。「くず鉄」貿易としては、ほかに弾道ミサイルを搭載しないフォックストロット級も取引品目になっていた。しかしロシア側関係者の証言によれば、北朝鮮の担当者は「ゴルフ級がどうしても欲しい」と言って取引再開を迫ったという。

第二に、T社の素性がある。ジャーナリストの有田芳生氏(現参院議員)は『週刊文春』の同年2月3日号掲載の記事で、同社が統一教会の系列企業であることを明かしている。

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記事によれば、同社の代表と3人の役職員は全員がソウルでの合同結婚式に参加した男性たちだという。ちなみに、長らく「反共」を唱えていた統一教会の文鮮明教祖は、1991年に電撃的に訪朝。金日成主席と会談し、核開発問題で孤立を深める北朝鮮のスポンサー的存在となっていた。

そして最後に、かねてからT社と取引があり、この潜水艦取引を主導した北朝鮮企業の名前である。

当時、T社代表を取材した新聞は、その名を「ポンデーサン」と書いている。これはハングルの読みを聞きとったものであり、漢字に直せば「烽台山」だ。これとよく似た名前の工場が、新型潜水艦の発見された北朝鮮の新浦に存在する。「烽台ボイラー工場」と呼ばれるその施設は、偽装した潜水艦工場であることが知られている。

では、あれから20年の時を経て、北朝鮮が日本の対岸に新型潜水艦を出現させた意味はどこにあるのか。(つづく
(取材・文/李策)

【連載】
北のミサイル潜水艦開発(上)「日本企業」の影
北のミサイル潜水艦開発(下)自衛隊と対峙