北朝鮮では、思想や表現の自由が認められていない。この二つの自由を認めることは、北朝鮮国民の体制への不満や異議を容認することであり、金正恩体制を脅かす危険をはらんでいるからだ。
国連の人権理事会で今月23日、採択された北朝鮮における人権侵害を非難する決議のベースとなる「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)は、「国家の監視は全国民の私生活に浸透しており、政治体制及び指導者に対する批判的な意見はほぼ必ず察知されるよう担保されている。『反国家的な』活動をしたり、異議を表明したりした国民は処罰されると指摘している。
(参考記事:同窓会までも「血の粛清」…北朝鮮「人権侵害」の実態)逆に言えば、国民の監視という人権侵害なくして金正恩体制は成立しない。だからこそ、国際社会からの批判や反発を顧みず、北朝鮮の治安機関は平気で人権を無視する。そして、住民を監視し、統治するために強権をふるっているのが日本の警察にあたる人民保安部、そして泣く子も黙る秘密警察「国家安全保衛部(保衛部)」だ。
国家安全保衛部は、いわばナチス・ドイツのゲシュタポのような存在だ。単なる治安機関の枠を越えて、金正恩式「恐怖政治」の実行部隊となり、張成沢氏を皮切りに、大物幹部を粛清・処刑に追いやった。記憶に新しいところでは、2016年の李永吉元総参謀長や、2015年の玄永哲人民武力部長(国防大臣にあたる)など、保衛部は粛清や処刑になんらかの形で関わったとみて間違いない。
(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射砲」、人体が跡形もなく吹き飛び…)(参考記事:北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面)
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幹部のみならず、北朝鮮の全国民に対する保衛部の影響力は絶大で、法的手続きなしで逮捕でき、政治犯収容所に入れたり、死刑に処することができるなど強力な権限を持つ。まさに、北朝鮮における人権侵害の総本山であり、今もなお人権侵害を拡大再生産している。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)(参考記事:スパイ容疑の芸術家を「機関銃で粉々に」…北朝鮮「人道に対する罪」の実態)
もちろん、党や軍の主な幹部やの粛清・処刑を最終決定しているのは、金正恩氏だ。一方、その裏で、誰を粛清し、誰を処刑するのか、企画・立案しながら暗躍しているのが、保衛部だ。トップの金元弘(キム・ウォノン)国家安全保衛部長は、粛清・処刑の実行部隊長であることから、恐れられ多くの人の恨みを買っているという。
(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる)ところが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、この泣く子も黙る拷問機関の関連企業が、火力発電所の工事利権を得ることに成功。金正恩氏は、発電所の設備更新と補修工事を国家保衛部に委任した。形の上では「委任」だが、実際には先述の金元弘保衛部長の粘り強い要求を、金正恩氏が受け入れたようだ。保衛部は、正恩氏が無視できないほどの、強大な権力を持ちつつあると言えよう。
(参考記事:金正恩氏も無視できない北朝鮮「秘密警察」の莫大な権力)保衛部は、金正恩式恐怖政治の手となり、足となり、耳となることによって近づきながら、一心同体になろうとしている。そして、両者の関係が、強固になればなるほど、北朝鮮の人権侵害の解決は遠のき、正恩氏は、ますます恐怖政治を続けていかざるをえなくなる。
(参考記事:徐々にわかってきた金正恩氏の「ヤバさ」の本質)(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)