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過激化するデモ、セウォル号の遺族たちは何に憤っているのか…「子供が消えた街」からのレポート

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1年前に発生したセウォル号の沈没事故をめぐり、朴槿恵政権と遺族らの対立が激化している。警察と遺族を支持するデモ隊との衝突も発生し、ソウル市中心部は一時、騒然とした空気に包まれた。こうした騒乱が必ずしも遺族らの意図するものでないとしても、彼らの怒りが、韓国社会に大きな問いを発しているのは事実だ。

沈没事故をきっかけに噴出した韓国社会の矛盾には、どれほどの根深さがあるのか。人々の怒りの所在について、ジャーナリストの李策氏がレポートする。

「陰謀論が出るのも当たり前」

「事故発生からこれほど時間が経つのに、疑惑は解明されるどころか深まる一方です。このままでは、韓国は立ち直れません」

『セウォル号の「真実」』(竹書房・以下、前掲書)の著者、郭東起氏はこう語る。

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工科では韓国最高峰に位置するKAIST大学を卒業し、現在は民間シンクタンクに研究員として身を置く郭氏は、4月16日の沈没事故発生直後から遺族団体などと協力しながら真相解明に取り組んできた。

この間、韓国では真相解明のための特別法を巡って与野党の政争が続き、11月になってようやく成立。その一方、乗客を見殺しにしたイ・ジュンソク船長らに対しては、懲役36年などの一審判決が下っている。

しかし郭氏は「特別法も裁判も、どちらの動きも真相解明につながるものではない」と語る。

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「事故の裏には、政府高官を巻き込む疑惑や謎が横たわっています。それも、ひとつやふたつではない。だからこそ特別法が必要なのですが、政争の中で実効性が弱められてしまった。船長らに対する裁判は、国民に対する目くらましのようなものです」

セウォル号沈没事故を巡る謎とは、どのようなものがあるのか。前掲書で列挙されたものの中から、一部だけ抜き出してみよう。

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◇韓国の捜査当局は5月15日、事故の原因について「ムリな改造で復元力が低下していたセウォル号を船員たちが急変進させたことによって船体の貨物が一方に偏り、バランスを失って沈没した」との見解を発表した。しかし、ほかの政府機関による分析や操舵手の証言では、船は急変進していない。

◇捜査当局は、しっかり固定されていなかった貨物が動いたことで船が大きく傾き、沈没に至ったとしている。しかし実際には、船は貨物が動く前に大きく傾いていたとする生存者の証言が多数ある――。

◇船が傾く前、船体に大きな「衝撃」が走ったという乗員乗客の証言がある。また救助船の到着前、沈みゆくセウォル号のすぐ近くに長さ100メートルほどの「怪物体」が突然現れ、間もなく消えたのをレーダーが捉えている。その正体は何なのか――。

このうち「怪物体」については「韓国軍との合同演習に参加していた米軍の原潜ではないか」との説が、インターネットなどで取り沙汰された。単なる「陰謀論」と切って捨てたくもなるが、前掲書で郭氏はこの説についての判断を保留している。なぜか。

「なぜなら、捜査当局の主張こそが最もいい加減だからです。彼らは、船がバランスを崩して沈没したと分析した根拠について、具体的な数値や条件を公開しようとしない。検証できない主張を事実と認めるわけにはいかず、従って事故原因については様々な見方が残るのです。

当局はまた、事故の当日には被疑者として警察署に留置すべき船長と船員らを、捜査幹部の自宅やホテルに泊めるという前代未聞の行動を取った。被疑者たちは、いくらでも口裏合わせが可能だったわけです。

さらに謎めいているのは、セウォル号が事故の際に国家情報院に直接連絡するマニュアルを備えていたことです。国情院はスパイやテロ事件を扱う諜報機関であり、船舶事故の救難体系とは無縁の存在。旅客船がそんな組織と連絡を取り合うなど普通なら考えられない。こんな事実が重なれば、人々が『陰謀』の存在を疑うのはむしろ当然でしょう」(郭氏)

遺族関係者「産経新聞はよくぞ書いた」

冒頭で郭氏も述べている通り、セウォル号沈没にまつわる疑惑は、いま初めて提起されているわけではない。遺族団体を支援する弁護士グループは昨年5月末、旅客船の運航管理や救難体制の不備、海運業界と政官の癒着、事故後の不透明な捜査過程など、約100項目にも及ぶ「疑惑リスト」を報告書にまとめている。

私も取材の手掛かりを求めてこの報告書を入手したが、あまりに内容が幅広く、全容を把握するのに数日を要したほどだ。

しかも、前掲書で提起された疑惑の多くは、この報告書がまとめられた後、新たに提起されたものなのである。その様を見守る遺族たちは、疑惑の渦に飲み込まれるような気持ちだったに違いない。

街全体から犠牲者が……

2014年8月中旬、韓国・安山市を訪れた。セウォル号に修学旅行のために乗り込み、260人以上の生徒・教師らが犠牲となった檀園高校の地元だ。そこで聞いた遺族団体関係者の言葉に、私は思わず耳を疑った。

「産経新聞は、あの記事をよく書いたと思いますよ」

産経の“あの記事”とは、同年8月3日付の同紙電子版に掲載されたソウル支局長のコラムのことだ。沈没事故の当日、朴槿恵大統領が7時間にわたり所在不明となり、その間に「男性と密会していたのでは」と匂わせたことが問題視された。その後、同支局長が韓国検察により刑事訴追されているのは周知の通りである。

韓国人の間でも、検察の行き過ぎを指摘する声は少なくない。それでも、「記事の内容は別として」などと前置きするのが普通だ。産経に対する手放しの「称賛」は、政府に対する強烈な不信感の表れに他ならない。

「あの団地では、同じ棟の20人近い子供たちが亡くなりました。あっちの町内でも、同じぐらいの犠牲者が出ています……」

関係者は街を案内しながら、声を絞り出すように言った。いっせいに子供を失った数百人の親たちが、毎日顔を合わせながら暮らす街の沈鬱さは、何とも言い表し難いものがあった。

一般的な航空機事故や船舶事故の犠牲者らは、たまたま乗り合わせた他人同士であることが多い。しかし街そのものが犠牲を出したセウォル号の場合、安山の人々の脳裏には事故の記憶が強く残り続けることになる。

関係者は、語気を強めて言った。

「疑惑について『根拠がない』と言うなら、政府は堂々と事実を明かせば良いのです。それをせずに言論を力で抑え込むのは、知られてはマズイことがあるからでしょう。こうなったら、政府など信じることはできない。だからこそ私たちは特別法を求めてきたのです」

断食する遺族の前でピザを食い散らかす

遺族たちの求めてきた特別法は、民間の専門家が参加する委員会に強力な捜査権と起訴権を付与し「聖域なき捜査」を行わせようというものだった。

民間に起訴権まで与えた事例は過去になく、政府与党だけでなく保守系のメディア、市民団体などが強く反発。一部では遺族に対する同情心まで吹き飛び、遠慮のない非難の言葉が飛び交った。

遺族らを誹謗し、断食闘争への当てつけでピザを食い散らかす人々

唖然とさせられたのは、特別法制定を求めてハンガーストライキを行う遺族代表の目前で、数十人がフライドチキンやピザを貪り食った右翼系グループのパフォーマンスである。

その様子が報道されるや、良識ある人々が怒りを爆発させたのは言うまでもない。

一方、事故から1周年を迎えて発生した騒乱に対して、多くの韓国国民が冷たい視線を向けているのも事実だ。遺族らの不幸をタテに政治的な思惑を遂げようとの考えがどこかにあるなら、それはむしろ、悲しみに裏打ちされた彼らの怒りを濁してしまうだろう。

しかしそうだとしても、遺族らは真相解明につながりそうなあらゆる可能性に手を伸ばさざるを得ないのではないか。

韓国社会はセウォル号事故を受けて、分裂の危機に瀕していると言っても過言ではないのだ。

亡くした子の「学費」を真相解明に使う

「それでも国民の大部分は、事故の真相を解明することで身を正そうと考えています。事故の背景に、『無責任さ』という社会の構造的問題があったのは明らか。それを直視し、乗客たちの犠牲をより良い国作りにつなげなければならない。

しかし保守的な国の指導者層は、自分たちの既得権を守ることに汲々とし、様々な事実を隠ぺいしている。自分で自分の体にメスを入れることを、彼らだけが拒否しているのです」(郭氏)

だが結局のところ、特別法をめぐる攻防は政府与党に押し切られる形となり、遺族の望む「聖域なき捜査」は遠のいた。韓国はこのまま復活することなく、国ごと沈んでしまうのだろうか。

「遺族も私たちも、真相解明が短期間でできるとは考えていません。韓国では子育ての環境が厳しいために少子化が進み、事故で犠牲になった高校生にも一人っ子が多かった。その親御さんたちは、『子供の進学や結婚のために使うはずだったおカネを、これからは真相解明のために使っていく』と決意しているんです」

権力や無理解な人々の圧力に屈することなく、遺族らがいつか真実をつかみ取ることを願いたい。

※週刊大衆2014年12月15日号に掲載された記事に加筆・修正したものです。