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朴槿恵大統領を食い物にし続けた「怪しい宗教家」の父と娘

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韓国が大スキャンダルに揺れている。朴槿恵大統領が国の機密文書を、崔順実(チェ・スンシル)という民間人の女性に漏洩していたのだ。国防、外交など、決して流出してはならない文書が外部に漏れたことで、韓国の政治、外交などに極めて重大な影響を及ぼすことが懸念されている。

崔氏をめぐる疑惑は2014年頃から報じられていたが、今月24日に韓国JTBCが、崔氏のタブレットPCから、朴大統領の演説原稿や、外交関連の文書など国家機密文書などのファイルが多数発見されたと報じたことで、ようやく「裏が取れた」形となった。翌日、朴大統領は流出は事実だったと認め、謝罪した。

仏教→カトリック→プロテスタント

それにしても、この「親友」崔順実氏とはどういう人物で、なぜ朴大統領は、何の権限も与えられていない彼女に機密文書を渡していたのだろうか。それを解き明かすには、まず彼女の父である崔太敏(チェ・テミン)氏のことから説明する必要がある。

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崔太敏氏は1912年、現在の北朝鮮の黄海道(ファンヘド)鳳山(ポンサン)郡で生まれた。当時の名前は崔ドウォン。1927年に載寧(チェリョン)普通学校を卒業後、警察官となった。

やがて終戦を迎え、朝鮮は日本の植民地支配から解放された。崔太敏氏は、警察官だった前歴を隠すために名前を崔サンフンに変え、江原道(カンウォンド)に移り住んだ。そして軍人となったが、朝鮮戦争の真っただ中の1951年3月に辞める。

その後は、8回も改名を繰り返し、慶尚道(キョンサンド)の寺に入って僧侶となって、全国仏教青年会の副会長まで務めた。

死んだ母が枕元に

ところがどういうわけか、こんどはカトリックの洗礼を受けている。

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崔太敏氏は1970年代初め頃、忠清南道の鶏龍山で永世教、または永世界というシャーマニズムの新興宗教団体を設立している。「南無慈悲調和仏」という念仏を唱えればいかなる難病も治るという「霊魂合一法」なるものを解いていた。ちなみにこれを「永生教」とする記事もあるが、1981年に設立された別の新興宗教だ。

そんな崔太敏氏は、母の陸英秀(ユク・ヨンス)氏が暗殺され、失意の日々を過ごしていた朴槿恵氏の元に現れた。きっかけは、1975年2月に崔太敏氏が朴槿恵氏に送った3通の手紙だ。

宗教団体の軍事部門

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その内容とは「私の枕元にあなたのお母さんが現れた。そして『うちの娘はいずれ国の母になるだろう。助けてやってくれ』と言った」というものだ。朴槿恵氏は、降霊術を行い、亡き母に会わせてくれる崔太敏氏に急速に惹かれていった。

1975年4月、かつて僧侶でシャーマンだったはずの崔太敏氏は「大韓救国宣教団」なる宗教団体を立ち上げた。それも今度は、キリスト教(プロテスタント)だ。その名誉総裁に就任したのが、朴槿恵氏だった。翌年4月に設立した「新しい心(セマウム)奉仕団」という関連団体で、当時大学院生だった崔順実氏は、朴槿恵氏と知り合った。二人はその時以来の親友だ。

この救国宣教団には「キリスト十字軍」という一種の軍事部門があり、多くのプロテスタント保守の牧師たちが参加し、軍事訓練を受けていた。

元々プロテスタントの信者たちは、平壌周辺に多く住んでいたが、北朝鮮の金日成政権の弾圧を受け、命からがら韓国に逃げてきていた。そういう経緯から、プロテスタントは非常に反共産主義的だった。

情報機関が調査

それで、キリスト教の布教と同時に、勝共精神の涵養、社会の浄化を掲げていた救国宣教団に数多くの牧師が参加したのだ。

ところが、キリスト教(プロテスタント)の各団体は、今回の事件を受け「崔太敏は牧師ではなかった」などと声明を発表し、疑惑の火の粉を払うのに必死になっている。

崔氏一家にのめり込む一方の娘の様子を心配した朴正煕大統領(当時)は、KCIA(現国家情報院)に命じ、調査を行わせた。

その結果、団体の業務は朴槿恵氏が執り行うことになっていたのに、実質的に仕切っているのは崔太敏氏で、政界、経済界、メディアなどに影響力を行使、不正蓄財を行っていることが明らかになった。

朴正煕大統領は、崔太敏氏を大統領官邸に呼びつけ、尋問した上で「去勢して、団体は解散させろ」との命令を下した。しかし、朴槿恵氏がかばい続けたため、処罰されることはなかった。

シャーマン説も

崔太敏氏が1994年に死亡した後も、朴槿恵氏と崔順実氏との密接な関係は続いた。

朴槿恵氏は、1997年にハンナラ党に入党して政界入りし、2004年には国会議員に当選した。その時に秘書室長を務めていたのが、崔順実氏の夫であった鄭允会(チョン・ユネ)氏だ。朴槿恵氏が、大統領を目指すことを決めたころから、崔順実氏との関係はより密接になっていった。

選挙運動の演説内容、大統領当選後の就任式、国務会議(閣議)の発言など、候補時代から大統領就任後の現在に至るまで、朴大統領の一挙手一投足を崔順実氏がコントロールしていたのではないかという疑惑が取り沙汰されている。

実は、崔順実氏はムダン(シャーマン)で、朴大統領を操っていたのではないかとの疑惑も浮上している。

米公使の秘密電文

朴槿恵氏と崔氏一家との親密すぎる関係について、周囲は懸念を示していた。

朴槿恵氏の実の妹の朴槿姈(パク・クルリョン)氏と、弟の朴志晩(パク・チマン)氏は1990年、当時の盧泰愚(ノ・テウ)大統領に「姉(朴槿恵)は崔太敏に騙されている。助けてほしい」との嘆願書を出したこともある。

聯合ニュースは、韓国駐在のウィリアム・スタントン米国公使が2007年7月20日に本国に送った電文の内容を、ウィキリークスの暴露内容を元に報じている。

それは「ハンナラ党(現セヌリ党)の大統領候補の朴槿恵氏は、韓国のラスプーチンと呼ばれる崔太敏という牧師と35年前からの関係について、他の候補から説明を求められている」「崔太敏氏は、人格形成紀の朴槿恵氏を心身ともに支配し、崔氏の子どもたちはその結果莫大な富を蓄積したと噂されている」などと、朴槿恵氏と崔氏一家との関係に懸念を示すものだった。

一方、朝鮮日報によると、同じ年にあったハンナラ党の大統領候補の選定過程で、李明博候補(当時)陣営から「朴槿恵氏が大統領になれば、崔太敏氏一族が国を支配するのではないか」との声が上がっていた。

「邪教に騙された」

朴槿恵氏と崔氏一家との関係に対して、韓国の政界からは与野党問わず批判や懸念の声が上がっている。

野党国民の党の朴智元(パク・チウォン)非常対策委員長は「朴槿恵大統領は崔太敏氏、順実氏親子の邪教に騙され、こんなこと(機密文書流出)をしたとしか思えない」と批判した。

与党セヌリ党の鄭斗源(チョン・ドゥウォン)前議員は、京郷新聞とのインタビューで朴槿恵大統領と崔順実氏との関係を「呪術的、シャーマニズム的」「朴槿恵大統領にとって、実の姉の朴槿姈氏、弟の朴志晩氏よりも、崔順実氏こそが家族」と語っている。

韓国では、宗教がらみの不祥事、スキャンダル、事故が後を絶たないが、今回のスキャンダルは、セウォル号沈没事故と並び、史上最大級と言えよう。

高校生ら295人を死に追いやった旅客船のセウォル号のオーナー、兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏は救援派と呼ばれるキリスト教系新興宗教の教祖だった。