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【現地ルポ】おでんのメニューにも「朴槿恵退陣」…韓国「100万人デモ」の舞台裏

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韓国の朴槿恵大統領の友人・崔順実(チェ・スンシル)容疑者の国政介入疑惑を巡り、朴氏の退陣を求める大規模な集会とデモが12日、ソウル中心部で行われた。参加者数は、主催者発表で100万人、警察推計でも26万人に達し、韓国が1987年に民主化して以降では最大規模となった。

主催した労働組合や市民団体は当日、午後2時までに、ソウル中心部・光化門の周辺各所に集結。個人で参加した一般市民や高校生などを含む若者らを交え、朴氏に対する糾弾集会を開いた。

その後、それぞれが別ルートでデモ行進し、先頭集団は青瓦台(大統領府)近くに到達。進入路を大型バスの「防壁」で封鎖した警察と対峙した。一方、市庁近くでは午後9時頃まで大規模な集会が行われ、一部は翌早朝まで「大統領は下野しろ」などのシュプレヒコールを上げた。

参加者数が、主催者と警察の間で大きく食い違っているのは、計算方法の違いによる。警察の場合はこうだ。

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警察は、1坪当たりの人数が6~7人と見当を付け、デモ参加者が「占領」した面積を掛算して人数を出した。これに対し主催者側は、集会参加を目的に足を運んだすべての人数であるとしている。

大型バスを並べた「防壁」の上で市民から抗議を受ける警察官たち

どちらが正しいのか。現場にいた実感は、主催者発表の方に近い。

集会・デモが長時間に渡ったほか、「早くに来て早めに帰った人」「遅い時間から参加した人」「付近の飲食店で時間をつぶしながら出たり入ったりしていた人」など、参加のありようは様々だった。警察の計算方法は妥当とは言えないのだ。

2002年w杯の影響

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では、主催者発表が正確かと言えば、それも違う。思い思いにブラブラしている100万もの人数を、その場で数えられるはずもない。

どちらかというと、「延べ100万人くらい」とでも言うのが正しいような気がする。

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いずれにしても、2000年代に入ってからの韓国の大規模集会の規模は、2004年に行われた当時の盧武鉉大統領の弾劾訴追の糾弾集会が、主催者発表で20万人・警察推計で13万人。2008年の米国産牛肉輸入再開を巡る反対集会が同70万人・8万人などとなっている。今回の集会が、最大規模であることは間違いない。

民間でこれだけの規模の集会を開くことができるのは、労働組合や市民団体で、1980年代に民主化運動を主導した世代が要所を占めていることが一つの理由だろう。

「お祭り気分」も

また、2002年のサッカーW杯での熱狂的な応援の経験が、国民に「ストリートに出ること」を促している面があるかもしれない。

実際、現場の雰囲気には「お祭り」的な部分も強かった。皆が楽しんでいる、というわけではない。それぞれが、その人なりに真剣、あるいは悲壮な思いを持って足を運んでいる。

ただ、そのような思いを持ってはいても、普段から何らかの活動を行っているわけではない、という参加者が多数派であるように見えた。

集会でトークライブを行う人気タレントのキム・ジェドンさん

そういった人々を引き付けるには、非日常の、「そこへ行けば何かがある」と思わせる要素が必要だろう。

それは、普段は縁のない戦闘的な労組と間近で接することかもしれないし、期待を裏切らずに軒を連ねる、韓国風おでんや串焼きの屋台(炊き出し)などの、文字通りの「お祭り」的な要素かもしれない。屋台やメニューに、「朴槿恵退陣」のビラがペタペタと貼られていた光景は、なかなか面白かった。

労働組合による炊き出し

そのような空気の中にあって、「100万人」の参加者は、決してひとつにまとまっていたわけではない。

たとえば戦闘的な労組は、朴氏の退陣を求めるだけでなく、与党セヌリ党や財閥にも攻撃の矛先を向けた。「労働者と資本家に和解はあり得ない」などともアピールしていた。熾烈な就職戦線に備えて猛烈な受験勉強をしながら、その合間に足を運んだ高校生たちとは、相容れない世界観だろう。

そもそも、大統領を退陣させるだけでも大仕事だ。「100万人」のメッセージをその一点に集中させずして、政治的な勝利を得られるのか疑問に感じた。

しかし、韓国メディアがリアルタイムで流す情報をスマホで見たり、翌日の報道を見たりしながら思ったのは、ただ足を運んだだけの人が多かったとしても、「100万人」の動員はすごいということだ。

選挙においても、それぞれの有権者が投じることができるのは1票に過ぎない。たった1票で何が変わるのか――そんなことを気にして最初からあきらめたのでは、自分の意思を政治に反映させることは永遠にできない。

自分ひとりが、法的な効力もない集会やデモに足を運んだところで、何が変わるわけでもない――今回のデモは、そのようには考えない韓国国民が「100万人」に達していることを示した形となった。

2016年11月12日、ソウルで行われたデモの様子

仮に、これで本当に政治が動くような展開になれば、韓国の「デモ文化」は選挙と並ぶ民主主義手法として、社会にいっそう深く根を下ろすかもしれない。