DAILY NK JAPAN

2割が「北朝鮮に帰りたい」…韓国の脱北者3万人、多くが困窮

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

韓国に入国した脱北者がついに3万人を突破した。

韓国の統一省の発表によると、今月11日に脱北者7人が第三国を経て韓国に入国したことで、脱北者の累計が3万5人となった。

脱北者が初めて韓国に入国したのは1962年のこと。その後は長きにわたり、年間に韓国入りする脱北者の数は多くとも2ケタに留まっていた。それが急増し始めたのは、1990年代末の大飢饉「苦難の行軍」のころからだ。

「中国生まれ」の子供たち

1999年に149人と3ケタに乗ると、早くも2001年には4ケタ(1114人)となった。2009年には2914人でピークに達し、2011年まで毎年2000人台を記録していた。ところが、ここから異変が生じる。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

金正恩政権が本格的に始動した2012年には、国境警備が強化された影響もあり、1502人に急落した。

2015年には1276人と、2003年の水準まで戻っていた。それが今年に入ってから再び増加に転じている。

性別で見ると女性が71%で圧倒的に多く、年齢は20〜30代が58%を占めた。また、学校に在学中の脱北青少年は2701人で、そのうち、中国などの第三国で生まれ、北朝鮮で暮らしたことのない脱北青少年は、51%(1383人)に達している。

移民型の脱北

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

時代の変化により、脱北の理由も様変わりしている。

経済的な理由を挙げる人が2001年には66.7%に達していたが、今では12%に減った。その半面、自由への憧れを挙げる人が34.8%、体制への不満を挙げる人が17.5%に達した。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

脱北前の生活レベルは「下」を挙げていた人が2001年の76.6%から、2014年には33.2%に減り、「中」が59.7%、「上」が7.1%に達した。「生きるための脱北」から「移民型の脱北」に変化しつつあると指摘されている。

食糧事情の改善や、市場経済化の進展で「食うに困っての脱北」をしていた時代は終わり、より政治的な理由で脱北する人が増えた。その背景には、金正恩政権による幹部の相次ぐ処刑、通信手段の発達で韓国や海外の情報の流入が増えたことによる自由へのあこがれがある。

だが自由や豊かさにあこがれて韓国にやってきたものの、貧困にあえぐ人は決して少なくない。

韓国定着後の生活レベルを問う質問に、脱北者の73.2%が「下」に属すると答え、脱北により社会的、経済的地位が下落することが明らかになっている。

差別、偏見など様々な要因があるが、そのうちのひとつが、北朝鮮で取得した学位などの資格が韓国では認められないことだ。

「北韓離脱住民保護および定着支援に関する法律」では、脱北者が北朝鮮時代に取得した学力や資格を認めると定めている。ところが、法律の整備が遅れ、実際にはほとんど認められていない。

違憲判決も

例えば、北朝鮮の医師免許は韓国では認められないので、韓国で医師になることはできないのだ。

これに対して医療政策研究所は2012年、10年以上の医療に従事した経歴のある脱北者に対して「臨時医師免許」を発行する案を提案した。ところが、大韓医師協会のムン・テジュン名誉会長は医療ニュースサイト「ドクターニュース」の取材に対し、ただでさえ医師の数が余っているとして、この案に反対した。

それに先立つ2006年、憲法裁判所は、北朝鮮で取得した漢方医の免許は韓国では無効とする韓国政府の方針に対して違憲判決を下している。しかし、北朝鮮での教育は、内容や条件が韓国とは大きく異なり、たとえ認められたとしても、就職は難しい。

そのため、約130人の専門職従事者のほとんどは、脱北後に元の職業に戻れずにいる。

平均月収は3分の2

また、生活支援が行き届いていないことも、脱北者の窮状が解消できない原因となっている。

脱北者は、住居手当も含めて1人あたり2000万ウォン(約185万円)の定着支援金を受け取る。しかし、ハナ院(脱北者教育施設)の玄関前には、脱北ブローカーたちが待ち構えている。脱北を助けた対価を受け取るためだ。そのため、脱北者は手持ちの現金がほとんどない状態で、韓国社会に放り出される。

さらに、収入面でも韓国で生まれ育った人とかなりの差がある。

統一省の2015年の調査では、脱北者の平均月収は147万1000ウォン(約13万5900円)で、韓国全体の223万1000ウォン(約20万6100円)の3分の2に留まっている。また、週あたり平均労働時間は47時間で、韓国全体の44.1時間より長い。つまり、低賃金で長時間働かされている人が多いということだ。

韓国を避け米国へ

韓国で貧困層に転落し、脱北を後悔している人が少なくない。

北韓人権情報センターとNKソーシャルリサーチが3月に発表した調査結果によると、北朝鮮に帰りたいと答えた人が全体の20.8%に達した。

おそらく、このような脱北者の苦境が、脱北を目指す人にも伝わっているのだろう。韓国経由で第三国に移住する人や、初めから米国やカナダを目指す人も少なくない。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、今年に入って米国に入国した脱北者は15人で、累計では207人に達している。

また、カナダは今年3月末の時点で、459人の脱北者に難民の地位を与えている。これとは別に、人道主義定着プログラムを利用して、カナダの永住権を取得した人もいる。