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トイレがあり得ない「金正恩住宅」を押し付けられる北朝鮮の被災者

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北朝鮮当局が、8月末に北朝鮮北東部で発生した水害の被災地で、一部の住民に対して非人道的な対応をしているという。どうやら金正恩党委員長の意向が反映されているようだ。

「この世の地獄」

水害被害について、北朝鮮当局は「解放後初の大災難(建国以来の災害)」としながら、被災者数を「6万8900人」と公式にアナウンスした。しかし、その後の韓国の民間シンクタンクや国際赤十字が把握した情報から、実際にはその4倍以上、30万人にも上ることが判明。さらに、被害拡大の裏には犯罪的ともいえる「人災」が隠されており、当局はそれを隠蔽しようとしている。

復旧現場では安全対策を無視した作業による事故が多発。山崩れや土砂に流されるなどの事故で、9月12日から29日までの間に100人以上が死亡したという。その後も被害が増えている可能性が高い。

過去にも、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたことがあった。しかし、北朝鮮当局は事故の存在そのものを隠蔽し、詳細は一切明らかにされなかった。今回も徹底的に隠蔽しようとしているようだ。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

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それでも、「北部地域被害復旧戦闘」は進み、会寧(フェリョン)市には1800戸、茂山(ムサン)郡には1500戸、延社(ヨンサ)郡には500戸の住宅が建てられ、すでに入居が始まっていると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

ところが、この割り当てが出身成分、つまり身分により「差別的」に行われているという。

「出身成分」とは、「親の職業は何であるか」「過去、身内に反体制分子はいなかったか」など、出自や家庭環境をもとに国民を上から「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3階層に分け、それをさらに50前後のカテゴリーに細分化したものだ。2012年に改正された憲法では「公民は国家社会生活のあらゆる分野で誰でも等しく権利を持つ」(65条)と規定している。しかし、当局は「成分調査事業」で、個人の出身成分、社会成分を定め、教育、職業、結婚などで差別的な扱いを行っている。

中でも「敵対階層」は「この世の地獄」と称される政治犯収容所に送られるなど粛清のターゲットになっている。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

あり得ないトイレ事情

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そして今回、北朝鮮当局は出身成分が良い被災者に優先的に住宅を割り当てているのだ。どうやら当局が「(朝鮮戦争)戦死者、栄誉軍人(傷痍軍人)の家族、つまり核心階層に最もいい家を割り当てろ」と指示したようだ。

核心階層には、丘の上で日当たりがよく、畑や庭付きの瀟洒な家が割り当てている。一方、脱北者の家族は最も後回しにした上で、ハーモニカ住宅(1棟に4戸が入る長屋)や、マンションの最上階を割り当てている。最上階というと聞こえはいいが、実は電力事情の悪い北朝鮮では最も条件が悪い。金正恩氏の肝いりで建てられたマンションにおいても、信じられない方法で「トイレ(汚物)問題」を解決する住民がいるほどだ。

(参考記事:空から汚物が…「金正恩住宅」のトイレ問題が深刻

情報筋は「当局は被害が深刻な人や老人などの弱者に、優先的に割り当てると当初は言っていたが、それを覆した」と憤る。さらに、被災地の市や郡の人民委員会(役場)には「住宅配定常務」という部署があり、保衛部(秘密警察)や保安署(警察署)と共同で、対象者の調査を行い、脱北者の家族は1回目の割り当て対象から除外している。

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金正恩氏は、脱北行為を厳しく取り締まる方針を打ち出しており、彼の意向が反映されていることは間違いない。つまり、「体制に忠誠を尽くせばいい思いができる。しかし脱北者の家族には辛い目に遭わせてやる」という見せしめの意味が込められている。

とはいえ、差別的な待遇を受けた人々は逆に「もうこの国に未来はない」と諦めて、脱北の機会を狙う。また、家族や親族に脱北者がいれば、海外からの仕送りでそれなりにいい暮らしも可能だ。仕送りを元手にした商売で繁盛する事もある。

金正恩氏の「見せしめ」差別に、それほどの効果はないだろう。