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金正恩氏のお出掛けを減少させた「トイレ問題と生命の危機」

2016年の北朝鮮を振り返る(11)

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韓国の統一省は10月末、金正恩党委員長が公式登場する回数が、年々減少しているという分析結果を明らかにした。2013年は212回だった公開活動の回数は、2014年は172回、2015年は153回。そして、2016年は11月末の時点で約110回だった。

自己顕示欲が強いといわれている金正恩氏の公開活動、いわば「お出かけ」が激減している理由としてまず考えられるのが一般庶民の反感だ。

金正恩氏のトイレ事情

北朝鮮の国民は体制に従順と思われがちだが、多かれ少なかれ何らかの反感を持っている。もちろん北朝鮮では自由な言動を恐怖政治で押さえつけていることから、人々が体制に対してもの申すことはできない。しかし、過去にはクーデター未遂や反体制行動かもしれないと思わせる事件が、度々起きている。

古くは、2004年春に起きた龍川(リョンチョン)駅爆発事故だ。訪中した金正日総書記を乗せた特別列車が通過したしばらく後に大爆発が起きた。この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。 昨年10月初めには、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、金正恩氏の視察前日に大量の爆薬が見つかった。今年5月には、36年ぶりの朝鮮労働党第7回大会が開かれている最中、地方の「人民委員会(日本の役所に相当)」に対する放火事件が発生した。

(参考記事:北朝鮮でも「クーデター未遂」が起きていた

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今の北朝鮮で金正恩体制に対して、組織的に行動を起こす大規模な反体制勢力が存在するとは考えづらいが、いずれも注目すべき事件ではある。そして、金正恩氏は自分の生命が国内よりむしろ国外から脅かされていると思い込んでいるのかもしれない。

昨年秋から米韓軍は、北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃を意味する「斬首作戦」を導入した。斬首作戦とは、「南北の緊張が激化して衝突の可能性が高まった際、北朝鮮が全面戦争を決断する前に、先制攻撃で意思決定機関を除去してしまおう」という考え方だ。万が一南北が開戦した際、最終的には米韓連合が勝利するだろう。しかし、緒戦でソウルを「火の海」にされ、経済が甚大なダメージを受けるのは避けられない。それを防ぐための作戦である。

とはいえ、民主主義国家である韓国が、国民や議会のコンセンサスもなしに、失敗すれば核で反撃されるリスクの高い作戦導入に突き進むことは難しい。現状では斬首作戦は、あくまでも金正恩氏に心理的圧力をかけるレベルだ。しかし、彼にとっては相当な効果があり、それが今年の公開活動の回数激減に結びついていると筆者は見ている。

この見方を裏付けるように、韓国の国家情報院(国情院)は、「金正恩党委員長は、身辺に危険が及ぶのではないかという不安感から、行事の日程や場所を急に変更したり、爆発物、毒物探知装置を海外から取り寄せて警護を大幅に強化したりしている」と分析した。

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さらに「お出かけ」減少の意外な理由として挙げられるのが、金正恩氏のプライベートにかかわる問題だ。

一見、独裁者でやりたい放題と見られがちな正恩氏。しかし最高指導者ゆえに、生活上、不便さを強いられることも多い。その端的な例が「トイレ」。現地指導の際、一般のトイレを使用できないために、専用車のベンツに「代用品」を載せて移動しているという。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

一般庶民の無言の反発と米韓による斬首作戦。そして移動するにあたっての多大なるストレス。こうした理由で、ただでさえ重い金正恩氏の腰はさらに重くなったようだ。とはいえ、ここに来て金正恩氏にもやっと反撃の姿勢を見せつけるチャンスが訪れた。11月から金正恩氏の軍関連の公開活動が急増しているのだ。

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この時期、韓国では朴槿恵大統領が「崔順実ゲート」をめぐり窮地に陥った。大方の予想を裏切って米大統領選ではドナルド・トランプ氏が当選した。朴政権の機能は停止し、次期米大統領の対北朝鮮政策は未知数だ。そして、北朝鮮に最も圧力をかけてきた米韓両国に政治的空白が生じているこの次期、金正恩氏は大胆な行動に打って出る。

朴大統領の弾劾決議案が可決された2日後の11日、北朝鮮国営メディアは金正恩氏が韓国大統領府(青瓦台)の襲撃、いわば「朴槿恵暗殺作戦」を想定した特殊作戦の訓練を指導したことを報じた。報道のタイミングからして職務停止となった朴大統領や現韓国政権に対する心理的圧力だろう。

(参考記事:金正恩氏「朴槿恵暗殺」特殊作戦を公開

韓国政治の混乱にあわせた「朴槿恵暗殺作戦」の公開は、劣勢を強いられてきた金正恩氏の本格的な反撃ののろしなのだろうか。それとも、生命の危険からほんの少しだけ解放されたと感じる正恩氏の精一杯の抵抗なのか。いずれにせよ、正恩氏の次の一手が気になる。