安保法制で高まる北朝鮮からの「核報復」リスク
人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真安全保障関連法案が16日に衆院を通過し、参院での審議が始まる段になっても、核武装した北朝鮮と軍事的に対峙することにより生じるリスクについてはは、まったくと言っていいほど検討されていない。
日本は絶対に、北朝鮮の核問題を素通りしたまま安保法制を成立させるべきではない。その理由を以下に述べる。
日本海が「戦場」に
国会で安保法制関連法案の審議が進んでいることを受け、北朝鮮内閣などの機関紙「民主朝鮮」は6月2日付の論評で、次のように警告した。
人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真「日本の武力攻撃は必ず相手側の軍事的対応を招き、これが戦争に広がるということは論じる余地がない」
北朝鮮が日本に〝難癖〟をつけるのは毎度のことだが、現在の情勢下で発せられたこの言葉に限っては、軽く聞き流すべきではない。というのも、このまま新たな安保法制が立ちあがることになれば、日本と北朝鮮との間で日本海が「戦場」となるリスクが確実に高まるからだ。
そして実は、その「序章」の幕はすでに切って落とされているのである。
海自も黙ってはいられない
北朝鮮は5月9日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行ったことを公表した。通常、SLBMは核兵器の運搬手段であり、それを積んだ潜水艦は水中に潜んで敵国の深部をねらう。このまま開発が進めば、日米韓にとっては厄介な話になる。
人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真もっとも、北朝鮮のSLBM開発は初期段階とされ、いずれ完成しても戦力的には意味をなさないとの指摘もある。自衛隊OBが言う。
「SLBMを搭載する弾道ミサイル潜水艦の強みは生存性の高さですが、北の潜水艦は騒音が大きくすぐに見つかってしまう。原潜と違って、ずっと潜ってもいられない。
また、潜没している潜水艦にミサイルの発射命令を伝えるには、波長が数十メートルに達するVLF(超長波)電波を送らねばならず、その送信施設は数キロから十数キロ四方の巨大施設になります。北にはこれがなく、平壌から命令を伝えることすらできません」
とはいえ、核ミサイルを搭載しているかもしれない潜水艦が日本近海をうろつくのを、まさか海上自衛隊が黙って見ているわけにも行くまい。
問題は「日米ガイドライン」
それに安保法制が成立して日本が集団的自衛権を行使して行くことになれば、海自には北朝鮮のSLBMを監視すべき“義務”も生じる。
日本政府が4月に米国と合意した防衛協力指針(ガイドライン)では、米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊が迎撃することが集団的自衛権の行使として想定されている。
弾道ミサイルの迎撃については今のところ、地上から発射されるケースについてのみ考慮されているが、北朝鮮が米国に脅威を与える目的でSLBMを開発しているのはまず間違いない。安保法制の成立後はガイドラインに基づき、北朝鮮の潜水艦に対抗する新たな任務が海自に求められる可能性が高い。
北朝鮮の「対日戦力シフト」
一方、北朝鮮の側は、すでに海自との「対決」に備え始めているフシがある。
北朝鮮はSLBMの実験直後、新型の対艦ミサイル3発を日本海に向けて発射した。これについて日本のマスコミは「韓国を挑発か」などと報じたが、とんでもない勘違いであると言わざるを得ない。
北朝鮮は韓国を挑発する際、米海軍が中国に気兼ねして自由に艦隊を展開できない朝鮮半島の西側海域(黄海)を舞台にしている。
それにも関わらず、わざわざ新型ミサイルを日本海側に持ってきたのは、「日本が我々の潜水艦に手を出すなら受けて立つぞ」というメッセージにほかならないのだ。
また、北朝鮮は3月にも日本海に向けて対空ミサイル7発を発射しており、「今後、海自のP3C対潜哨戒機の接近を拒否するための措置であった可能性がある。
大海原での「殺るか、殺られるか」
では、海自と北朝鮮の潜水艦が実際に対峙することになったら、どのようなことが起き得るのか。
まず前提として知っておくべきは、海上でのにらみ合いは武力衝突に発展するリスクが非常に高いということだ。
大海原では双方の間に遮蔽物が無いため、逃げたり隠れたりすることができない。そのため「殺るか、殺られるか」の緊張が高まりやすいからだ。
それが、米朝間で軍事的緊張が高まっている情勢下であればなおのことだ。たとえば近い将来、能力を向上させた北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦が、米軍基地の集中する沖縄やグアムに進路を取るようなことになれば、米軍や自衛隊に緊張が走るのは避けられないだろう。
「先に沈めてしまえ」
技術的には、発射されたSLBMを撃ち落とすより、発射前の潜水艦を沈める方がよほど簡単だ。在日米軍基地などを襲う核ミサイルの迎撃に失敗するリスクを考えれば、「先に沈めてしまおうか」との選択肢が浮上するのは避けられない。
しかしそこには、ひとつのジレンマが避けがたくつきまとうことになる。果たして北朝鮮がどこまで「本気」なのか、ミサイルが発射されるまでは見極めにくいということだ。
北朝鮮の海軍力自体は、日米にとっては物の数ではない。厄介なのは、北が核武装しているということだ。
日本がガイドラインに基づき、弾道ミサイル潜水艦に先制攻撃を加えて撃沈した場合、北朝鮮が「米国への攻撃意図などなかった」「単なる訓練だった」などと主張し、「核報復」の権利を言いたてるであろうことは火を見るよりも明らかだ。
もちろん、北朝鮮が国家として存続したいならば、日本に対する攻撃を実行することなどできない。しかし、核武装国からあからさまに「核攻撃」の脅しを受け続けている国に対し、世界の人々(とくに投資家や外国企業)は従来と変わることなく「安全な国」であるとの認識を持ち続けてくれるだろうか。
安保法制によってもたらされるリスクの高さを、日本国民はじゅうぶんに知っておくべきだろう。(ジャーナリスト 李策)