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金正恩氏も激怒必至…北朝鮮庶民の体制批判ジョーク

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北朝鮮の一部庶民の間で、金正恩党委員長が聞いたら激怒するであろうジョークが囁かれている。

徹底的で暴力的な言論統制が敷かれている北朝鮮でも政治体制に不満を抱き、ジョークや隠語などで金正恩体制を批判する人々はいる。もちろん彼らも、言質を取られるような表現で体制批判をするわけではない。

「ブタ」呼ばわり

一昨年、北朝鮮の若者たちの間では「4丁高射銃で撃たれてみるか?」というジョークが流行った。4丁高射銃とは、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長の公開処刑で使われた銃火器で、人間を文字通り「ミンチ」にする恐ろしいものだ。残酷な処刑方法をジョークにするとは悪趣味と思えるかもしれないが、公開処刑が珍しくない北朝鮮の現実を反映していると言えるだろう。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

金正恩体制に反発する北朝鮮の人々のこうしたリアルな声は、本欄やデイリーNKジャパンでも繰り返し伝えてきたが、正恩氏は国民のユーモアによって「裸の王様」にされつつあるようだ。

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昨年8月には「大同江(テドンガン)ブタ工場(養豚場)」を現地指導した金正恩氏に対して、庶民らは喜々としてあれこれと揶揄したという。

(参考記事:金正恩氏の「ブタ工場視察」に北朝鮮庶民が浴びせるヒドい悪口

最近では、金正恩体制の聖地である白頭山すらジョークのネタになっている。

正恩氏のネガティブ情報

中朝国境にそびえる白頭山(ペクトゥサン)は、金日成主席が抗日パルチザン活動の根拠地とし、金正日総書記の出生地(実際はロシア生まれ)とされていることから、金正恩体制にとっては聖地である。金日成氏に始まる一族は「白頭の血統」と呼ばれる。

北朝鮮は金正恩氏の偶像化を目的に、白頭の血統の業績を称えるための国際大会の開催を企画しているが、その一方で北朝鮮の庶民の間では「白頭山よりも韓国の漢拏山(ハルラサン)が頼れる」というジョークが出ている。一体、どういう意味か。

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白頭山は先述のように金日成氏の一族、つまり現在は金正恩氏を意味する。一方、済州島にある韓国の最高峰・漢拏山は、なんと脱北者を意味するというのだ。つまり、まともな政治もできない金正恩氏より、韓国で稼いで送金してくれる脱北者の方が頼れるという意味だ。

韓国の脱北者は、北朝鮮に残した家族のために仕送りをしている。受け取った家族は、それを生活費に回すだけでなく、商売の元手にもする。脱北者からの送金は、北朝鮮で「草の根資本主義」が育つ上でカンフル剤にもなってきたわけだ。

さらに、脱北者に対しては「志願軍」という表現も使われる。朝鮮戦争で北朝鮮に加勢した中国人民解放軍が「中国人民志願軍」を名乗ったことに由来するものだ。朝鮮戦争への中国の参戦は、北朝鮮を追い詰めつつあった国連軍(米軍)を38度線以南に押し返すなど、戦況に大きな影響を与えた。いま脱北者が「志願軍」と呼ばれるのは、彼らの送金額が北朝鮮経済において、無視できないレベルに達したことを意味している。

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北朝鮮では、過去には日本や中国に親戚を持つ人々がうらやましがられた。しかし、日本や中国からの送金が細った今、脱北者を持つ家族が羨望の的となっている。「白頭の血統」をもじって「漢拏の血統」という言葉も現れた。地方幹部の中には、「目立たぬように、静かに暮せばいい」と脱北者家族を擁護し、その代わりに経済的に困ったことがあれば助けを求めるという共生関係を築いているケースもある。

こうした世相を反映してか、ある親は仕事もせずに遊んでいる息子や娘を、「ブラブラしていないで、脱北でもしたらどうなんだ」という意味を込めて「情けないやつ!」と叱っているという。

北朝鮮当局が、いくら金正恩氏の偶像化と神格化を進めようと、そんな思想は現実生活を最優先する庶民にとっては無用の長物だ。むしろ、偶像化を進めれば進めるほど、庶民らはそれに反発する。そして、金正恩氏のネガティブ情報に接して密かに喜びながら、その情報を拡散させるのだ。

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