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「老いぼれ魔女」への死刑宣告でさく裂した金正恩氏の怨念

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北朝鮮の金正恩党委員長は、よほど韓国の朴槿恵前大統領を憎んでいるようだ。既に大統領職を罷免され政治の世界から追放された朴槿恵氏に対して「処刑」を宣告した。

吹き飛ぶ韓国軍兵士

きっかけは、26日付の朝日新聞の報道だった。同紙は、朴槿恵政権が金正恩氏を指導者の地位から追い落とす工作を企画していたと報じた。朝日新聞の報道は、デイリーNKジャパンや本欄で伝えてきた内容と重なる。

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一方、北朝鮮もこの報道に即座に反応した。同国の国家保衛省、人民保安省、中央検察所は28日に「われわれの最高首脳部を狙った敵の特大型国家テロ犯罪行為が次々とあらわになっている」と主張する連合声明を発表した。発表のタイミングや中身からして朝日新聞の報道をもとにしていることは明らかだ。

そのうえで、「特大型国家テロ犯罪者である朴槿恵逆徒と前かいらい国家情報院院長の李炳浩一味を極刑に処する」と宣告した。朴氏と韓国の情報機関元トップに対する「死刑宣告」である。

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北朝鮮が朴氏に対して、威嚇するのは今回がはじめてではない。金正恩氏は昨年12月、韓国大統領府(青瓦台)の襲撃を想定した作戦、いわば「朴槿恵暗殺」特殊作戦を直々に指導した。

(参考記事:金正恩氏「朴槿恵暗殺」特殊作戦を公開

金正恩氏が暗殺までほのめかしながら朴氏を非難する背景には、まず間違いなく金正恩氏の個人的な感情がある。2年前の南北の緊張で自身を窮地に追い込み、憎き米国と手を組んでプレッシャーをかけてくる朴氏に対する怨念である。

2015年8月、北朝鮮が非武装地帯に仕掛けた地雷が爆発した。爆風で韓国軍兵士の身体の一部が吹き飛ばされことをきっかけに、南北が一触即発の事態に突入した。幸い対話によって衝突は回避されたが、韓国政府が公開した爆発シーンの衝撃的な動画を見た韓国世論は、朴氏の強硬姿勢を後押しし、北朝鮮を謝罪に追い込んだ。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

この事態に、金正恩氏が、大きな屈辱を味わったであろうことは想像に難くない。以来、北朝鮮メディアは朴氏を「老いぼれ魔女」などと罵倒するようになるが、韓国はさらに攻勢を強め、有事の際に北朝鮮の指導部を排除する「斬首作戦」にまで言及しながら、金正恩氏に圧力をかけた。

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それ以後、金正恩氏の公開活動は激減する。その一方で、翌2016年には異例ともいえる1年間に2度の核実験を強行した。朴氏に対する反撃の機会を虎視眈々と狙っていたにちがいない。

2016年10月以後、朴槿恵氏が「崔順実ゲート」をきっかけに窮地に陥るやいなや、金正恩氏は反撃に転じる。先述の朴槿恵暗殺作戦は、彼女に対する弾劾訴追案が可決された直後に公開された。スキャンダルにまみれ地に落ちた朴氏の姿を金正恩氏は溜飲を下げながら見ていたに違いない。

朴氏が大統領職から罷免された後も、北朝鮮の非難の声は止まなかった。そして、今回の朝日新聞の記事をきっかけに処刑を宣告し、改めて朴氏に対する非難を強めている。

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金正恩氏の朴氏に対する憎悪は、いつまで続くのだろうか。気になるのは、朴氏が金正恩氏の憎悪の対象でなくなった時だ。外に向いていた負の感情のはけ口が国内に向けられた時、またもや恐怖政治がはじまり、粛清と処刑の嵐が吹き荒れるかもしれない。

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