北朝鮮当局はAの殺人事件の捜査を、反国家犯罪として国家による捜査に切り替えた。たとえA個人が恨みを買っていたとしても、国家権力の威光を背景にした保安員に対する攻撃を捨て置くわけにはいかないからだ。
当局はAがこの5年間に担当した事件の容疑者のリストを洗い出し、リストに名前がある人物にアリバイの証明を求めた。しかし、一向に容疑者は浮かんでこなかった。当局は、捜査の範囲を教化所(刑務所)などに収監されている者の家族にまで拡大したが、それでも容疑者の手がかりはつかめなかった。
事件現場のマンション周辺は、住宅密集地帯で大きな市場もあり、流動人口の多いところだ。それにもかかわらず、目撃者は現れていない。下手に通報をすれば、逆に犯人に仕立て上げられかねないので、誰も協力しようとしないのだ。