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「人民の名で処断する」…悪徳権力に「血の復讐」を始めた北朝鮮の人々

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北朝鮮の治安機関の、庶民に対する横暴ぶりはすさまじい。各種犯罪の捜査においては、人権という概念すら存在しないような厳しい取り締まりで望む。

もちろん、横暴の限りを尽くす治安機関員は多くの庶民の恨みを買っており、「血の復讐」に遭うこともある。

北朝鮮で昨年、保安員(警察官)が殺害される事件が起きた。当局は大々的な捜査を行ったが、1年以上経っても容疑者逮捕には至っていない。その詳細を、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

女子大生を拷問

事件が起きたのは昨年8月末のことだ。順川(スンチョン)市保安署(警察署)に勤務する32歳の保安員Aは、オートバイに乗って江浦洞(カンポドン)のYマンションの自宅に到着した直後、物陰に潜んでいた何者かに後頭部を殴打され、殺害された。

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住民の通報を受けて出動した保安員らは、被害者が同僚であることを確認し、上部に報告した。保安局は、過去にAによってひどい目に遭わされた何者かが綿密な計画を立てて行った報復殺人と見て、捜査に乗り出した。

一方、Aは順川市民の間で、悪徳保安員として知られていた。ある容疑者には執拗な拷問を加え半身不随にしただけでなく、後遺症で死に至らしめたこともあるという。北朝鮮の治安機関は、捜査で拷問を厭わない。一昨年5月には、韓流ドラマのファイルを保有していたという容疑だけで、女子大生に過酷な拷問を加え、悲劇的な末路に追い込んだ。拷問の件もあり、Aに対する市民の不満は爆発寸前だったという。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

北朝鮮当局はAの殺人事件の捜査を、反国家犯罪として国家による捜査に切り替えた。たとえA個人が恨みを買っていたとしても、国家権力の威光を背景にした保安員に対する攻撃を捨て置くわけにはいかないからだ。

当局はAがこの5年間に担当した事件の容疑者のリストを洗い出し、リストに名前がある人物にアリバイの証明を求めた。しかし、一向に容疑者は浮かんでこなかった。当局は、捜査の範囲を教化所(刑務所)などに収監されている者の家族にまで拡大したが、それでも容疑者の手がかりはつかめなかった。

事件現場のマンション周辺は、住宅密集地帯で大きな市場もあり、流動人口の多いところだ。それにもかかわらず、目撃者は現れていない。下手に通報をすれば、逆に犯人に仕立て上げられかねないので、誰も協力しようとしないのだ。

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そればかりか市民からは「天罰だ」「スッキリした」という声が出ている。

北朝鮮には「戦争になったら(米軍や韓国軍ではなく)保安員や国家安全保衛省(秘密警察)の幹部を先に殲滅する」と言う人が少なからず存在するが、情報筋は「なぜそういうことを言う人が増えるのか、保安員は胸に手を当てて考えたほうがいい」と忠告した。

道内では、市民に暴行を働いた保安員が反撃を食らう事件がしばしば起きているが、かつての北朝鮮では、起こり得ないことだった。金正日政権時代の1990年代には、当局の横暴に抗議した多くの労働者が、戦車に轢き殺されるという凄惨な事件が起きている。声を上げる市民は徹底して叩き潰されたのだ。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

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しかし、ここ最近では保安員への報復行為は珍しくなくなっている。2012年には、清津(チョンジン)で保衛部幹部、道検察所幹部、道人民保安局幹部の4人が殺害される事件が発生した。遺体の横には「人民の名で処断する」というメモが残されていたという。

(関連記事:妻子まで惨殺の悲劇も…北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ

横暴な治安機関員に対する庶民の不満の高まりを受けて、金正恩党委員長は昨年、人民保安省(警察庁)に対して「捜索令状なしに家宅捜索をするな」という指示を出したと伝えられている。殺人は決して許されるべきことではないが、庶民の復讐が金正恩氏にこのような指示を出させたとするなら、それはすなわち怒れる大衆のささやかな勝利と言うことができるだろう。