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「麻酔なしの手術」に「中絶手術で懲役」…混迷深める北朝鮮の医療

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北朝鮮が自慢する無償治療制は、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を境に崩壊してしまった。病院には医薬品が不足しており、麻酔薬なしに切開手術が行われているとの情報も聞こえてくる。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

避妊も禁止

海外出張者の医療並びに安全対策サービスを世界の会員企業に提供している「インターナショナルSOS」と「コントロール・リスクス」の2社は、世界の渡航リスクの概要を把握できる『トラベル・リスク・マップ2017』(以下、リスクマップ)で、北朝鮮の医療に対する評価を最低ランクに位置付けた。

英国外務省も一昨年、「北朝鮮の医療施設と医師のリスト」という資料を公開し、自国民に注意を促したこともあった。北朝鮮の医療施設は劣悪で、麻酔薬がないこともしばしばあるため、現地での手術はできる限り避けることや、手術が必要になったら即時帰国するように勧告している。

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こんな中、少しでもましな診療を望む患者は、多額の医療費負担を強いられる。また、国営病院の設備も遅れており、患者は医師に往診してもらったり、医師が自宅で開業したクリニックに行ったりすることが多いという。

ところが、北朝鮮当局は最近、医師が病院以外で医療行為を行うことを禁じ、違反者は厳罰に処すとの警告を発したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、内閣の保健省は、医師に対して私的医療行為を行うことを禁じる、特に現金を受け取って分娩を行った産婦人科の医師に対しては最高で懲役3年の厳罰に処するとの方針を示した。

実際、清津(チョンジン)市の産婦人科医が、妊婦の自宅で分娩を行った容疑で摘発され、懲役3年の刑が言い渡された事例がある。妊婦の要望に従っただけの医師を罰するのはおかしいと、保健当局のやり方に対する不満が高まっていると情報筋は伝えた。

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北朝鮮の医師が、病院外で治療行為を行うのは、国全体の医療システムが崩壊したことに根本的な原因がある。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、恵山(ヘサン)産院に入院すれば、朝食にワカメと海産物が出されるが、それ以外の食事は自費負担だ。さらに、暖房用の薪、分娩時に必要な脱脂綿など、ありとあらゆるものが有料だ。さらには、医師、看護師それぞれにワイロを渡す必要もある。

一方、自宅に往診してもらえば、出産の場合は全て込みで、90中国元(約1450円)で済む。

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自宅での医療が広がっているもう一つの理由は、妊娠中絶が禁じられていることにある。

北朝鮮は1983年、出産抑制策の一環として、中絶手術を公式に認めた。しかし、こんどは人口減少が懸念されるようになり、1993年11月になって中絶手術を禁止する措置を取った。そして、その後の食糧難などで、思うように人口が回復しなかったため、さらに積極的な出産奨励策に転じた。

1998年の第2回全国母親大会では、「母親とすべての女性は、子どもの直接の保育者、教養者であることを自覚し、多く生んで健康に育てなければならない。一家で3人以上は産まなければならない」とした。これ以降、病院での中絶手術ができなくなったのだ。

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当局は、何が何でも子どもを生め、育てられなければ愛育院(孤児院)に送れと指示しているが、それは親たちの感情を無視したものだ。ただでさえ生きにくい北朝鮮社会での育児に消極的になるのは、仕方のないことだろう。そのため処罰される恐れがあっても、自宅で中絶手術を受けるケースが多いのだ。

これを受け、医者はもちろん、医学生も中絶手術のバイトで生活費を稼いでいる。費用は、条件に応じて150元から300元(約2420円〜4840円)ほどだ。

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無茶な出産奨励策の影響で、捨て子が増えたとの報告がある。2014年11月、両江道の別の情報筋はRFAに「出産率を高めるとして、中絶を禁止したため、道端に捨てられる新生児が大幅に増えた」と語っている。

私的医療行為の禁止は、患者のみならず、医師にとっても死活問題だ。国営病院から受け取る給料は、5000北朝鮮ウォン(約65円)前後で、コメ1キロを買うのがやっとだ。患者からワイロを受け取ったり、私的医療行為を行って報酬を受け取ったりしなければ、そもそも生きていけないのだ。

非現実的な私的医療行為禁止令は、長続きしないことは火を見るより明らかだ。また、著しい少子化も、社会そのものが変わらない限り、改善することはないだろう。