先月、北朝鮮の海外向け週刊新聞「統一新報」が、北朝鮮の学生服のデザインとカラーが30年ぶりに変わったと伝えた。金正恩氏が学生達の制服についても気を配る「人民大衆に優しい指導者」というイメージを打ち出すためだ。
「ルーズフィットはダメ」
北朝鮮「イマドキ10代おしゃれ事情」を知るため、デイリーNKは昨年10月に脱北したリ・チョルフン君（10代仮名）に、話を聞いてみた。チョルフン君は、北朝鮮にいる時は、南浦（ナムポ）市の高級中学校に通っていた。
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色は明るくなったけど、やっぱりダサいかなぁ。元々、制服の色は濃紺だけど、男子も女子も「黒色の制服」を好みます。特に、男子は明るい色を嫌がりますね。
ーどうして黒い制服が人気なの？
エラい幹部連中がよく着る「詰め襟服（人民服）」が黒いから、「黒は高級」というイメージがあります。
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女子も黒は好きですが、やはり中間色を好みます。グリーン、グレー、ブラウン、紺など･･･それほど濃くなくてシックな色です。日本製や韓国製の服は、おおよそ中間色ですね。女子の上着は、中間色のようでそうでもない。
グレーは悪くないけど、上着が赤紫なのは、ちょっと嫌がられるかな。たぶん、慣れるのに時間がかかるでしょう。
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ズボン太すぎ（笑）ルーズフィットでダメです。北朝鮮の男子も中3になれば外見に気を遣います。細身のズボン、いわゆる「スリムフィット」を履きたがりますよ。
「人間の価値が下がる」
でも、女子の制服は社会服（学校を卒業した成人女性が着る服）みたいで悪くないと思います。女子学生は、わざわざセーラー服に仕立てたり、夏には鮮やかな色の制服を着ますよ。ジーンズに似せた「韓流風の制服」も人気です。
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北朝鮮の制服について
【解説】ここで、北朝鮮の制服事情について少し解説しよう。北朝鮮で学生服は1959年から無償配給され始めた。1977年の金日成氏65才の誕生日（1977）から全国の幼稚園、小学校、中学校、大学生に、靴、バッグ、タオル、学用品を含めた制服上下セットが、「贈り物」として配給された。
この「贈り物」は1980年代末までに3年ごとに実施されたが、1990年代の苦難の行軍の頃からは経済難により中断された。ところが、2007年の金正日氏65回目の誕生日からは、制服は「有償配給」になる。
これも、3年ごとで1着5000ウォン（現在のコメ価格1キロ分）だった。しかし、国家から配給される学生服は生地の質が悪く、学生たちからは不評を買った。
これに目を付けた商人たちが、市場で「学生服に似せた服」の販売をはじめると瞬く間に広まり、7割以上の学生が市場で「制服」を購入するようになった。
北朝鮮当局の制服が市場の制服に負けた格好だが、当局も学校側もこの流れを食い止めることができなかった。
「ジーンズを脱がされ…」
ー国や学校から配給される制服を着なければ学校で怒られるんじゃないの？
配給制服は、嫌でも無条件購入です。でも、それを着るか、着ないかまではさすがに学校側も取り締まれないです。あんなダサい制服を着たら「人間の価値が下がる」とまで言われるぐらいですから（笑）。今では、教員の子どもたちでも、配給制服なんか着ないのです。
ーじゃぁ、配給制服を着たらいじめられる？
金銭的に余裕のない家庭の学生、3割ぐらいは配給制服を着ます。金持ちの学生は、わざわざ市場であつらえますよ。この時期、3月末からは新制服に似せた服が市場で売りだされると思います。
ー値段はどのぐらい？
配給制服は、5000ウォン（コメ1キロ分）だが、市場で売られている服は15?20万ウォンだから3倍から4倍ですね。
ー制服を着ていない時、つまり普段はどんな服を着る？
男子も女子も一番多いのはジャージーです。ジーンズも人気ですが、学校の青年同盟指導員（風紀委員みたいな存在）が、目を光らせてバレようもんなら大目玉。それだけじゃなく脱がされてハサミでズタズタに切られてしまうことだってあります。
バリカンで「虎刈り」
ー女子は、ジャージー以外ではどんな服が人気？
女子は、やっぱり体のラインが出るタイトな服を好みます。高いヒールは、平壌の女性には人気があるみたいですが、女子学生はあまり履かないかなぁ。ブーツも履いていたら指導員がうるさいので、スニーカーや低めのヒールの靴を履きます。
「覇気ヘア」は、本当に大流行しているのか？
ー学生たちのヘアスタイルは、どんなのが流行ってる？総連（在日本朝鮮人総連合会）の報道では、金正恩氏みたいな髪型「覇気ヘア」が大流行と伝えてたけど？
ヘアスタイルについては、一番取り締まりが厳しいです。男子は、無条件に「覇気ヘア」にしなければなりません。後ろを刈り上げず、前髪を伸ばしているのが青年指導員に見つかったら警告を受けます。
それでも、切らなければバリカンで虎刈りにしてしまいますよ。そうなってから、やっと散髪に行きますが、髪がきちんと生えそろうまでは帽子をかぶって隠します（笑）
ーさすがに女子は「覇気ヘア」をしないよね？
女子のヘアスタイルは比較的自由です。長く伸ばす時は、後ろでくくるように指導されます。しかし、古臭いと男子にからかわれるので取締されない程度に切ります。長い髪に髪留めをつけたりするけど、派手なリボンだったら注意されます。
韓流や金正恩氏の夫人・李雪主さんの影響もあってか、ショートカットは人気ですね。ストレートパーマをかけて軽くボリュームを出したりする女子もいますよ。
ー新学期になれば制服、かばん、靴、学用品も配給されるの？
制服と教科書だけです。2013年までは古い教科書が配給されました。12年制になった2014年からは、新しい教科書が配給されました。靴、バッグ、学用品は配給されないので市場で購入します。
ー靴はいくらぐらい？
一番、高級なスニーカーは「新義州運動靴（新義州靴工場で製造された靴）」だけど、高くて2万5000ウォンもします。安いスニーカーは1万2000ウォンぐらい。理由は、わからないけど咸鏡道の方に行くと値段が高くなります。
ーカバンは、どんなのが人気？
小学生はリュックサックです。中高生と大学生は、手提げやショルダーバッグを使う。最近、流行っているのはノートパソコン用みたいに作られた「美男子バッグ」です。市場で売られていて、元々は中国ブランドですが、韓国製と思われています。値段は、30ドルから70ドルと幅広いです。
外部世界から見たら、地味に見える北朝鮮の学生達。そんな北朝鮮イマドキ学生たちは、決められた「ダサい制服」に抵抗して、ささやかな「おしゃれ闘争」をしていた。チョルフン君のインタビューを通じて見えてきたのは、北朝鮮の男子も女子も、年頃になれば、おしゃれに敏感になるというごく普通の10代の姿だった。