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北朝鮮サイバー部隊が脱北予備軍である理由

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今月8日、北朝鮮の外貨稼ぎの柱である北朝鮮レストランの従業員ら13人が集団脱北し、韓国へ入国したことが明らかになった。さらに、北朝鮮の対南工作機関に所属していた大佐が昨年、亡命していたことが韓国政府によって明らかになった。

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韓国政府が、このような情報を立て続けに公表する裏には、4月13日投開票の韓国総選挙を前にして、朴大統領が北朝鮮に対する独自制裁の効果をアピールしながら、保守層の票固めを狙ったものという見方もある。いずれにせよ、核・ミサイルに端を発した現時点での南北対立は軍事面、心理戦、宣伝戦など、あらゆる面において韓国が押し気味に進めているように見える。

とはいえ、北朝鮮も防戦一方というわけではない。3月初めには、GPSへの妨害電波を発信するなどのサイバー攻撃を行った。それだけでなくフェイスブックを通じたサイバー「ハニートラップ」まで駆使しながら、攻勢に出る機会を虎視眈々と狙っている。

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北朝鮮は、これまで何度か韓国にサイバー攻撃を仕掛け、それなりに打撃を与えており、決して侮るべき存在ではない。実際に攻撃を行う「サイバー戦士」の多くは、北朝鮮一の金策工業総合大学の出身者であり、韓国のIT関係者や情報機関によると、極めて優れたITエンジニア揃いだと知られている。

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では、北朝鮮のサイバー戦士たちは、どこを拠点にしているのだろうか。彼らは大学卒業後、諜報機関「偵察総局」傘下の電子偵察局に配属され、中国、マレーシア、インドネシアなど海外のIT企業に派遣される。そして、普段はIT技術者として働きながら、ひとたび偵察総局から指示が下れば、韓国などの対立国家にサイバー戦を仕掛ける。

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驚くべきは、彼らのなかには、月に5000ドルを稼ぐ高給取りもいるという。そのうち2000ドルを国に上納し、残りの3000ドルが取り分だ。北朝鮮の国営企業で働く一般労働者の平均月給は1ドルだ。つまり、一ヶ月で平均月給の250年分を稼ぐ計算になる。これを資金として、平壌のマンション建設に10万ドルを投資するサイバー戦士もいるという。

(参考記事:海外で大もうけする北朝鮮のハッカーたち…平壌マンション建設に投資も

もちろん、彼らも本国へ上納するだけでなく、稼いだ一部はこっそり貯め込んでいるはず。さらに、海外にいることから、国際情勢や北朝鮮の置かれている状況なども把握している。つまり、北朝鮮のハッカーたちは、今回の亡命事件のように、いつ北朝鮮を離れてもおかしくない脱北予備軍ともいえる。冒頭に述べた韓国に亡命した軍幹部の亡命ルートは不明だが、彼の所属していた偵察総局は、まさにハッカーたちを統括すると見られている組織なのだ。

(参考記事:北朝鮮レストラン従業員ら13人が集団脱北

かつては、脱北者イコール「貧しさに耐えきれず北朝鮮を離れた」というイメージがあった。しかし、今回、韓国入りした北朝鮮レストランのウェイトレスたち、そして偵察総局に所属していた軍幹部は、決して貧しいわけではない。彼らのように貧困層ではない、北朝鮮住民の脱北は今後も増えるだろう。経済的に余裕が生まれ、海外情報に接していれば、金正恩体制に不満を抱くことは避けられないからだ。

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