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金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈(1)すべては帰国運動からはじまった

北朝鮮と日本のメディアに惑わされた在日朝鮮人

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今から56年前の1959年12月14日、夢と希望に満ちた在日朝鮮人と日本人妻を含む975人が、旧ソ連の軍艦を改造した貨客船、クリリオン号とトポリスク号の二隻に乗って北朝鮮へ出発した。在日朝鮮人帰国事業の第1陣である。

産経新聞が賞賛した北朝鮮

マンセー(万歳)という歓喜の声と赤旗で見送られた彼らは、「地上の楽園」と喧伝されていた北朝鮮で新たな未来を切り拓くはずだった。しかし、それは大ウソだった。総勢約9万人の帰国者は、日本で貧困と差別に苛まれていた時以上の過酷な人生を送ることになる。

一つの疑問が浮かぶ。なぜ、在日朝鮮人は北朝鮮の宣伝に騙されてしまったのか。そのナゾを解く手がかりは、帰国事業を伝えた報道にあった。

今でこそ、実情がある程度明らかになっている北朝鮮。ただ、1950年代は情報も少なく、本国から朝鮮総連を通じて伝えられるプロパガンダしか存在しえなかった。

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北朝鮮のプロパガンダ拍車をかけたのが、日本のメディアだ。帰国船が新潟を出港する12月14日付の日刊紙を見てみると、朝日、読売、毎日、そして産経新聞を含む主要全紙が、帰国事業を「美談」として報道している。

産経新聞は、社会面で在日本大韓民国居留民団(民団)をはじめとする「帰国事業反対派」の抗議行動、阻止行動を「悪質な妨害」「テロ情報」と報じるなど、現在の北朝鮮に対するスタンスとは、正反対の報道内容だった。

1959年12月27日付産経新聞より

帰国者たちの怨嗟の声

さらに、同紙は、帰国者のその後を伝えるため、北朝鮮で現地取材。1959年12月27日付の2面で「躍進する北朝鮮」「焼土から立ち上がる」と、北朝鮮のプロパガンダ紙さながらの論調を展開している。

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北朝鮮の宣伝と日本の報道機関の北朝鮮賛美によって、貧困に苦しんでいた在日朝鮮人は祖国への幻想を抱き、帰国事業に駆り立てた。しかし、帰国者を待っていたのは、日本での宣伝とは大違いの貧困という現実と北朝鮮社会で最下層に位置づけられた差別だった。

「こんなはずではなかった」祖国に裏切られ、未来が打ち砕かれた彼らの怨嗟の声が聞こえて来そうだ。

そんな中、底辺からファーストレディーまで登り詰めた一人の女性がいる。北朝鮮の最高指導者である金正恩第1書記の実母「高ヨンヒ(※)」だ。

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高ヨンヒは、大阪鶴橋生まれの在日朝鮮人だが、北朝鮮はその出自・経歴を一切明らかにしていない。こうした事情から、一時期はプロレスラーの娘という情報が流れたが、これは誤報だった。筆者は2011年、日本と北朝鮮の公式資料、そして当時の彼女を知る人物の証言や写真から、彼女の真の正体を明らかにした。

そして、高ヨンヒの正体を知るにつれ、なぜ北朝鮮が彼女の存在を明らかに出来ないのかという事情も浮かび上がる。

金氏王朝確立に立ちはだかる障壁

2011年12月、金正恩は、金正日の後を継ぎ、北朝鮮は金日成氏から続く三代世襲国家となった。基本的に、王朝は血族によって世襲される。北朝鮮が目指す先にあるのは、故金日成を始祖とする血族、すなわち「白頭の血統」を柱とした王朝、「金氏朝鮮」だ。

しかし、金正恩が王朝体制を確立するためには、実母・高ヨンヒの存在は最大の壁となって立ちふさがる。

帰国者たちが、北朝鮮で辛苦をなめたのは、単に貧しい国だったからではない。帰国者=よそ者ということで差別されたからだ。北朝鮮には「出身成分」という独特の身分制度がある。上から「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3種類に分けられるが、一部の能力を持つ者以外の大部分の帰国者は「敵対階層」に位置づけられた。

最下層の高ヨンヒは、どのような足跡を歩み、ファーストレディーになることが出来たのだろうか。(つづく/敬称略)
【連載】金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈(2)偶像化に立ちはだかる実母「高ヨンヒ」
【連載】金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈(3)日本への「凱旋」と「国母」の夢

※一般的に、高ヨンヒは「高英姫」と記されるがこれは間違いである。正確な漢字名は不明だが、彼女が舞踊家だったことを考えると「踊(ヨン:용)」の字を取って踊姫(ヨンヒ)ということが考えられる。