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「韓国に来ても二重の苦しみ」脱北者でゲイの小説家、半生を語る

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北朝鮮から海外に逃れた脱北者で、唯一のオープンリーゲイ(カミングアウトした性的少数者)である小説家チャン・ヨンジンさん。彼は昨年4月に自叙伝小説「赤いネクタイ」を出したが、このたびその英語版が出版されることになった。

脱北者でゲイのチャン・ヨンジンさんの自叙伝的小説「赤いネクタイ」(画像:ムルマンチョ)

そもそも「同性愛」「性的指向」などの概念すら理解されていない北朝鮮という社会で、彼はどのように暮らしていたのだろうか。

「妻」に触れることもできず

ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、自分の生い立ちについて次のように語っている。

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チャン・ヨンジンさんが生まれ育ったのは、北朝鮮東海岸の清津(チョンジン)だ。彼はソンチョルという名の男子の友人に恋心を抱いていた。

二人の友情は平壌に引っ越してからも続いた。地下鉄が混んでいるときはソンチョルの膝の上に乗っかった。そんなときソンチョルは、彼を後ろから抱きしめた。

他の国だったらゲイカップルに思われただろうが、周りの人々は仲の良い幼なじみぐらいに思っていたことだろう。

そんな二人が引き裂かれたのは17歳の時に、チャンさんが軍隊に入隊してからだ。彼は結核にかかり、1982年に除隊。清津に戻り、港の無線局で働いていた。

男同士、同じ布団で…

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1987年に彼は、数学教師と見合い結婚した。しかし、夜の営みを試みようにも、ソンチョルのことが思い出され、妻に指一本触れることすらできなかった。

やがて、ソンチョルが軍隊から戻ってきて二人の友情は復活した。彼は看護師と結婚し、二人の子どもの父親となっていた。

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双方の家族は互いの家を頻繁に行き来していた。夜が更けて泊まっていくこともしばしばあった。そんな時には、妻同士、夫同士同じ布団で寝る不思議な関係だった。

しかし、チャンさんは「こんな暮らしは監獄にいるのと変わらない。鳥のように飛んでいきたい。妻も愛のない結婚生活から自由にさせてあげたい」と思うようになり、離婚届けを出そうとした。しかし、妻は首を縦に振らなかった。離婚すれば、教師の職を失いかねないからだ。

韓国でも差別

チャンさんはソウル経済新聞とのインタビューでその時の状況を次のように語っている。 「結婚初夜、目の前にいる妻を見ても、同性の友達のことが思い出され、何もできなかった。それがどんな感情かはわからなかった。ただただ生きていた。いつかよくなるだろうと思って。しかし、結婚してから9年経っても、妻への感情には変化が起きなかった。依然として落ち着かず、申し訳なかった。妻のためだと思って離婚訴訟を起こしたが、受け入れられなかった」

そんな状況に耐えかねて、彼は1996年に中国に脱北した。

韓国に行く手だてを求め、方々を駆けずり回ったが埒が明かず、一度北朝鮮に戻り、地雷だらけの軍事境界線を越えて韓国に亡命したのだ。

韓国にたどり着いたものの、取り調べではなぜ脱北したかの本当の理由については明かすことができなかったという。同性愛の本に接してようやく自分が同性愛者であることに気付いた。

尊厳を踏みにじられ

しかし、韓国での暮らしも順調とはいえなかった。

脱北者であり性的少数者である彼は「ダブルマイノリティ」で二重の差別を受けていたからだ。彼はヨーロッパ北朝鮮人権委員会(EAHRNK)とのインタビューで次のように述べている。

「北朝鮮は人間の自由を制限し抑圧する。民主主義社会である韓国でもそうだ。性的少数者は抑圧され、差別されている」

韓国では、キリスト教保守プロテスタントを中心にした勢力がホモフォビア(性的少数者差別)を煽り性的少数者のパレードに対して激しい妨害を行うばかりか、「性的指向に基づく差別を禁止する」という条項が含まれているとして、差別禁止法の制定にも激しく反対している。

性的少数者の尊厳を平気で踏みにじる行動や言動を続けている彼らだが、一方で北朝鮮に対して人権問題の解決を要求し、韓国に暮らす脱北者の生活支援を行っている。実に皮肉な韓国の現状だ。