ところがこの彼、引っ込み思案で他人に食べ物を恵んで欲しいとの一言が言い出せなかった。国家の配給制度が曲がりなりにも機能し、皆に余裕があった昔ならともかく、一銭も持っていない人に食べ物を施すような人は、すっかり世知辛くなった今の北朝鮮にはなかなかいない。1週間もの間、黙って飢えに耐えていたら死んでしまったというのだ。
同様の事件は他でも起きている。7年間の兵役を終え、列車に乗って故郷に向かっていた元女性兵士が、目的地まで1日で着くはずが10日もかかったため車内で死亡した。軍部隊からは除隊記念にコメ20キロを手渡されていたが、両親を喜ばせるために手を付けずにいたことで餓死してしまったようだ。
北朝鮮の軍は、兵士らへの食糧配給がろくになされず、栄養失調にかかる事例も多い。また、女性兵士は「マダラス」と呼ばれる性的虐待に苦しんでもいる。そんな7年の月日の間、両親との再会をどれほど待ちわびていたのだろうか。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)